「マラソン大会に申し込んで練習を始めた矢先、膝の外側に痛みが出始めてしまった」「最初は少し痛む程度だったので、ランニングは休まず続けていたが、どんどん痛みが悪化し歩くのも辛くなってしまった」――このような経験をされた方は少なくありません。
ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、ランニングやマラソンを楽しむ方々を悩ませる代表的なスポーツ障害です。サポーターをしてみても変わらない、電気やマッサージをしても走れるようになるまでは回復しない、そんな状態が続くと「このままではマラソン大会に間に合わない」と不安になってしまいますよね。
当院では、「歩くだけでも痛みがあった膝が3回の施術で痛みがなくなった」「休んでも一向に良くならなかった膝の痛みが改善し、フルマラソンも完走することができた」など、多くのランナー膝患者を根本改善へと導いてきました。その専門知識を基に、自宅でできる効果的な改善方法をご紹介します。
なぜランナー膝は良くならないのか
多くの方が膝の外側の痛みに対して、膝だけにアプローチしてしまいがちです。湿布を貼る、痛み止めを飲む、テーピングをする、サポーターをつける――これらは一時的な対症療法にはなりますが、根本的な解決にはなりません。
当院の豊富な臨床経験から分かったことは、ランナー膝は膝だけアプローチしていては改善されないスポーツ障害だということです。では、どこにアプローチしていけば改善されるのでしょうか?
ランナー膝の3つの根本原因
当院に来院されたランナー膝の方は、必ずと言っていいほど以下の3つのいずれか、または複数に原因がありました。
1. 腰椎(腰)の問題
腰椎から出ている腰神経は、膝の外側まで神経がつながっています。腰椎の関節の動きが悪くなると、膝の外側に神経が伝わりづらくなるので、膝の関節や筋肉が上手に活動することができなくなってしまいます。この動きが悪い状態で、ランニングやロードバイク等を長時間行っていると、膝に負担が加わり痛みを誘発してしまうのです。
また、背骨(腰椎)はスプリングの役割をしています。背骨の動きが悪くなってしまうと、歩行や運動時にスプリング機能が果たせないため、下半身に負担が加わりやすくなります。
2. 筋力の連動性の崩れ
腸脛靭帯は、大腿筋膜張筋という筋肉が太ももの上部で腸脛靭帯という組織に変わり膝関節に付着しています。ランニング時に、膝関節の腸脛靭帯に摩擦が起きて炎症が起きるのですが、この摩擦を起こす要因となっているのが、筋力の連動性です。
通常ですと、大腿筋膜張筋が働いた後に中殿筋が働き、腰方形筋が働きといったシークエンスで筋力発火が起きます。この時に、中殿筋の筋力低下が起きると、骨盤の側方制御が障害され、さらに大腿筋膜張筋が過活動になり膝の負荷が加わってしまいます。
運動における筋力の連動性はとても大切で、繰り返しの負荷で筋力の連動性が崩れると膝だけでなくさまざまな関節に障害が及ぶ恐れがあります。
3. 重心バランスの崩れ
ランナー膝は左右どちらかの膝に起こることが一般的で、両側が負傷することはほぼ稀です。片側が痛むということは、片足に荷重が加わった時に左右のバランスが崩れていることを意味しています。膝の外側が痛むということは、下肢の内側の筋肉が使えていないとも言えます。重心が外側に傾いてしまうと運動パフォーマンスも低下してしまうのです。
正しい呼吸の重要性
ランナー膝の根本改善において、多くの方が見落としているのが「呼吸」の重要性です。正しい呼吸ができていないと、体幹が不安定になり、腰椎の可動性が低下し、重心バランスも崩れやすくなります。
呼吸・姿勢・膝の健康はつながっています。横隔膜をしっかり使う深い呼吸を習慣にすれば、自然と姿勢も良くなり、体幹が安定することでランナー膝の改善につながります。
呼吸が体幹と姿勢に与える影響
肋骨の下にある横隔膜は、呼吸の主役であるだけでなく、姿勢を助ける働きもしています。横隔膜が正しく働くと、お腹まわりを360度に広げる腹腔内圧が高まり、腰椎しか骨がないお腹まわりを支えて体幹を安定させることにつながります。
約90%の人が正しい呼吸ができていないと言われています。運動不足やストレスで体が硬くなると、呼吸が乱れて姿勢が崩れがち。その状態ではどんなトレーニングをしても正しい動きができません。まずは肋骨を大きく動かす呼吸が、体幹がしっかり働くための第一歩です。
体幹を整える基本の呼吸法
1. インプリント – 基本の呼吸法
やり方:
- 仰向けで膝を立てて寝ます
- 腰を床にぎゅっと押し付けます
- 鼻から10秒吸う→10秒吐く→10秒止めます
- 5〜10回繰り返します
ポイント: ※すべて鼻呼吸で行ってください。吐くときは肋骨が下に降りるイメージで!朝起きた時や寝る前がおすすめです。
注意点: 腹筋が緩んでしまう人は、うつ伏せで肘をついた状態で呼吸練習してから、再チャレンジしてみてください。
2. ファーストポジション
やり方:
- 四つん這いから肘と手のひらを床につけます
- 背中を丸めて頭も下げます
- この姿勢で鼻呼吸を1分間続けます
- 腹筋の下の方に力を入れる意識で行います
ポイント: 背中を丸めた状態を維持することで、腹横筋がしっかり働き、体幹が安定します。呼吸中も腹筋の緊張を保つことを意識しましょう。
3. キャットブリージング
やり方(段階的に):
ステップ1: 四つん這いで背中を丸めて鼻呼吸を行います
ステップ2: 膝を持ち上げて(足は床と垂直)鼻呼吸を続けます
ステップ3: 膝を伸ばして頭を前に出して鼻呼吸を行います
注意点: 苦しくない程度に調整しながら行ってください。最初はステップ1から始めて、徐々に次のステップに進みましょう。
効果: 体幹が安定することで膝への負担が軽減され、ランナー膝の改善・予防につながります。毎日コツコツ続けることが大切です。
まとめ
ランナー膝の改善には、膝だけでなく腰椎の可動性、筋力の連動性、重心バランスといった全身的なアプローチが不可欠です。そして、これらすべての基盤となるのが「正しい呼吸」です。
重要なポイントは以下の3つです:
- 横隔膜をしっかり使った360度の呼吸で、体幹を安定させる
- 呼吸法を習慣化することで、腰椎の可動性と神経の流れを改善する
- 運動時も呼吸を意識し、腹圧を保つことで重心バランスを整える
呼吸・姿勢・膝の健康はつながっています。1日1回は呼吸と向き合う時間を持ちましょう。正しい呼吸を練習して無意識に正しい呼吸が続くようになれば、体が持つ機能を最大限に活かすことができます。
今回紹介した呼吸法を毎日継続することで、「もっと早く取り組んでいれば」と思えるような効果を実感できるでしょう。ただし、症状が重い場合や改善が見られない場合は、専門家の診断と治療を受けることが大切です。適切なケアで、再びランニングを楽しめる日が必ず来ます。







