成長期のお子様に多い「オスグッド・シュラッター病」と「殿筋(お尻の筋肉)」の関係性についてお話しします。当院には多くのオスグッドでお悩みの学生さんが来院されますが、実は膝だけの問題ではありません。
オスグッドとは
オスグッド・シュラッター病は、膝のお皿の下にある脛骨粗面という部分が飛び出してきて、痛みを引き起こす疾患です。10歳から15歳くらいの成長期で、サッカーやバスケットボール、バレーボールなど、ジャンプやダッシュを繰り返すスポーツをしている学生さんに多く見られます。
特徴的なのは、「休んでいると痛みはないが、スポーツをすると痛む」という点です。多くの場合、整形外科では「2~3ヶ月安静にしてください」と言われてしまいます。
しかし、大事な試合を控えている学生さんにとって、数ヶ月もスポーツを休むことは非常に困難です。
従来の治療法では改善しないケースが多い理由
一般的な医療機関では、オスグッドに対してこのような対応が行われます:
- 痛み止めの薬を処方
- 膝周辺への注射
- 安静指導
- 太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)のストレッチ
しかし、これらは痛みを一時的に抑える「対症療法」であり、根本的な原因を解決できていません。そのため、競技復帰後に再発してしまうケースが非常に多いのです。
当院に来院される患者様の中にも、「病院で3ヶ月休んだのに、練習を再開したらまた痛くなった」という方が少なくありません。
殿筋が大きく関係している
当院では、初回のカウンセリングと検査に十分な時間をかけて、お身体全体のバランスを詳しく分析します。その結果、オスグッドの患者様の多くに共通しているのが「殿筋の機能低下」と「骨盤のバランス異常」です。
殿筋の役割
殿筋はお尻の筋肉で、人体の中でも最大級の筋群です。単純に「お尻を動かす筋肉」と思われがちですが、実は重要な役割があります
1. 骨盤を支えて安定させる 殿筋は骨盤を支える土台のような存在です。殿筋が弱くなると骨盤が不安定になり、その影響が下半身全体に波及します。
2. 脚全体のアライメント(配列)を整える 殿筋は太ももの骨(大腿骨)を正しい位置に保つ働きがあります。殿筋の機能が低下すると、太ももの骨が内側にねじれてしまい、膝のバランスが崩れます。
3. 運動の力を効率よく伝える 走る、跳ぶ、方向転換するなど、スポーツ動作のすべてにおいて、殿筋は力を伝える中継点として重要な役割を果たしています。
オスグッド発症のメカニズム
殿筋の機能低下がどのようにしてオスグッドを引き起こすのかを解説します
1:殿筋の機能低下 長時間の座位(授業や勉強)、運動パターンの偏り、急激な身長の伸びなどにより、殿筋の機能が低下します。
2:骨盤が不安定になる 殿筋が弱くなることで、骨盤を正しい位置に保てなくなります。骨盤が前傾したり、左右に傾いたりします。
3:膝のアライメント異常(ニーイン) 骨盤の不安定性により、太ももの骨が内側にねじれ、膝が内側に入ってしまいます。これを「ニーイン」と呼びます。
4:大腿四頭筋が過度に緊張する 膝のアライメントが崩れることで、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が本来以上に働かなければならなくなり、常に緊張した状態になります。
5:膝蓋腱への過度な牽引力 大腿四頭筋の過緊張により、膝蓋腱(膝のお皿の下の腱)が強く引っ張られます。
6:脛骨粗面への負担増加→オスグッド発症 膝蓋腱が骨の付着部である脛骨粗面を繰り返し引っ張ることで、炎症や骨の変形が起こり、オスグッドが発症します。
つまり、膝の痛みは結果であり、原因は殿筋の機能低下と骨盤のバランス異常にあるということです。
根本原因から治すことの重要性
オスグッドを本当に改善するためには、痛みのある膝だけを診るのではなく、根本原因にアプローチすることが不可欠です。
なぜ根本治療が必要なのか
従来の対症療法では、痛みを一時的に抑えることはできても、身体のバランス異常や殿筋の機能低下といった根本原因は残ったままです。そのため、安静期間を経て競技復帰しても、同じ身体の使い方を続ける限り、再び膝に負担がかかり症状が再発してしまいます。
一方、根本原因である殿筋の機能不全と骨盤のバランス異常を改善すれば、膝への過度な負担がなくなり、自然と痛みが軽減していきます。さらに、身体全体のバランスが整うことで、パフォーマンスの向上も期待できます。
根本治療で目指すべきこと
- 殿筋の機能回復 弱くなっている殿筋を活性化し、本来の働きを取り戻すことが最優先です。殿筋が正しく機能することで、骨盤が安定し、膝への負担が軽減されます。
- 骨盤バランスの正常化 歪んだ骨盤を正しい位置に戻し、下半身全体のアライメントを整えます。骨盤が安定すれば、太ももの骨の内旋やニーインといった問題も改善されます。
- 正しい動作パターンの習得 身体のバランスが整っても、誤った動作パターンを続けていては再発のリスクが残ります。走る、跳ぶ、着地するといった基本動作を正しく行えるようになることが重要です。
- 全身のバランス調整 オスグッドの原因は膝や股関節だけにあるわけではありません。足首、腰、肩など、身体全体のバランスを整えることで、より根本的な改善が可能になります。
根本治療のメリット
根本原因にアプローチする治療には、以下のようなメリットがあります:
- 早期の競技復帰が可能:数ヶ月の安静を必要とせず、適切な治療により早期復帰が目指せます
- 再発のリスクが低い:原因が解決されるため、同じ症状を繰り返しにくくなります
- パフォーマンスの向上:身体のバランスが整い、本来の力を発揮できるようになります
- 他の部位のケガ予防:全身のバランスが整うことで、他の部位への負担も軽減されます
予防とメンテナンスの重要性
オスグッドを発症させないため、また再発させないためには、日頃からの予防とメンテナンスが非常に重要です
1. 殿筋の定期的な強化 週2~3回、5分程度でできる殿筋強化エクササイズを継続しましょう。当院では、自宅で簡単にできるエクササイズを指導しています。
2. 正しい動作パターンの習得 スクワット、ランディング(着地)動作など、基本的な動作を正しく行えるようになることで、膝への負担を大幅に軽減できます。
3. 定期的な身体のメンテナンス 成長期は身体の変化が激しく、バランスが崩れやすい時期です。月1回程度、身体のバランスチェックとメンテナンスを受けることをお勧めします。
4. 練習量と休息のバランス 頑張りすぎは禁物です。適切な休息を取りながら、質の高い練習を心がけましょう。
最後に
オスグッドは、単なる膝の問題ではありません。殿筋の機能不全による身体全体のバランス異常が根本原因となることが非常に多い疾患です。
従来の「痛い部分だけを診る」対症療法では限界があります。なぜオスグッドが発症したのか、その根本原因を徹底的に分析し、殿筋と骨盤を中心とした全身のバランスを整えることが、真の改善への近道となります。
「病院で数ヶ月安静と言われたが、大事な試合があるのでどうにかしたい」「何度も再発を繰り返している」「他の治療では改善しなかった」このようなお悩みをお持ちの方は、根本原因からのアプローチをご検討ください。







